越境ECビジネスでよくある課題を解決するために着目したい4つのポイント
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越境ECに進出をお考えの企業の方はこちらの記事もご参考ください。越境ECビジネスを成功させるために気をつけるべきことをまとめてあります。
ポテンシャルを持っている日本発の越境EC市場
4年で200%の成長を続けている越境EC市場
越境ECの市場規模は、中国やアメリカ・ヨーロッパを中心に、世界中で拡大傾向が続いています。現在は中国とアメリカが市場の約60パーセントを占めていますが、今後インターネットや端末の普及、決済システム・物流システムといったインフラの整備などが進めば、途上国であっても伸びる余地は非常に大きいといえます。総務省の『平成28年版 情報通信白書』によると、EC市場は2019年には2015年の2倍以上の市場規模に到達すると予測されています。
図引用元:(平成28年版 情報通信白書)
また、現在の市場規模はそれほど大きくはないものの、インドやインドネシア、アルゼンチンやメキシコといったアジアやラテンアメリカの国々のEC市場は、高い成長性を持っていることがペイパルの調査によって明らかになっています(ペイパルによる越境 EC グローバル調査 2016 )。
また現在の2大市場である中国とアメリカに対して、日本は越境ECユーザーの購入先国としてそれぞれ第2位と第4位にランクインしています。
図引用元:(平成28年度電子商取引に関する市場調査報告書)
越境ECにおける購買において、中国では品質や信頼性の高さが主要な購入理由となっている一方、アメリカでは価格や新しい商品の発見が購入にいたる重要な動機となっています。このように、越境ECといっても日本の事業者が売りにできるポイントは販売先によって異なります。つまり、販売先の国や地域によって打ち出す魅力が異なってきます。
越境ECはインターネットを通じて海外に商品を売り込むため、自社のブランドイメージや商品についての情報発信とともに、越境ECをおこなう上で必要なインターネット普及率や決済・物流システムに関する各国のマクロ環境や日本とは異なる商慣習について知ることも重要となってきます。しかし、いざ越境ECを始めるとなると何から取りかかっていいのか戸惑うこともあるかと思います。
図引用元:(平成28年度電子商取引に関する市場調査報告書)
実際、日本は世界のEC事業者上位1000社に入っているEC事業者が53社しかおらず、そのうち直接海外への出荷にも対応している事業者はわずかに7社だけしかありません。 欧米の企業の直接海外出荷率が5割を超えていることを考えると、日本の取り組みは遅れていると考えられます。また、この問題を考える上では言語の違いにより難しさが浮き彫りになってきます。では、こうした課題が山積するなかで、どのように越境ECを始めればよいでしょうか。今回はでは、越境ECをするにあたっての課題と、それらの課題を解決する具体的な対策についてご紹介していきます。
越境ECの課題を解決するために着目すべき4つの課題
課題1. 越境ECで売れやすいものはなにか?
まず、越境ECでは売り先の市場でどんなものが売れているかを調べることが課題となります。電子商取引に関する市場調査によると、中国とアメリカでは次のような商品が売れ筋としてランキングされています。
図引用元:(平成28年度電子商取引に関する市場調査報告書)
訪日外国人消費行動調査(平成29年 1-3期報告書)のインバウンドにおける売り上げをふまえて大まかにいえば、アジア圏ではアパレル・服飾品や菓子類をはじめとする食料品、電化製品や化粧品、医薬品といった工業製品の需要が高くなっています。一方、欧米では日本文化に関わるものが購入されやすい傾向にあり、両者のニーズの違いがハッキリと現れています。
また、「インバウンドと越境ECの関係」は重要なポイントとして挙げられます。簡単にいうと、旅行やビジネスなどで訪日した際に購入した商品を帰国後にリピートして購入するという消費行動が起こっているのです。実際、上記にランクインしている商品は訪日外国人消費行動調査でも購入率の高い品目となっています。インバウンドで買ってもらい、もしその商品を気に入ってもらうことができれば、越境ECを通して再び購入してもらうことができリピートに繋がります。
このように越境ECとインバウンド対策は別々のものではなく、繋がっているものとして捉えてビジネスを進めていくことが重要です。
越境ECとインバウンド対策はいずれも海外への情報発信が重要となってくる点が共通しています。このため、海外でのwebマーケティングは多くの企業様が苦慮していることかと予想されます。海外webマーケティングの重要性についてはこちらの記事をご覧下さい(越境EC、インバウンド対策で見落としがちな海外でのWebマーケティングの重要性 )。
日本の商品が売れる一番大きな理由は、日本国内で日本人向けに販売される商品のクオリティーが他の地域と比べて高いことにあります。これはMade in Japan(日本製)の商品に限らず、中国や東南アジアで製造している場合にも言えることです。特に日本のメーカーによる正規品の保証は中国などでは信頼性の証として重視されています。ただし、日本製でかつ日本国内で売れているからといって越境ECでも人気が出るとは限りません。商品ごとにターゲットとなる国での市場調査は必ず行う必要があります。
課題2. 越境ECにおいて、商品をどこでどう売るか
市場調査により売れる可能性があるものがわかったら、次はどのような場所でどのようにして売るかを明確にする必要があります。越境ECはその名前が示す通り、基本的にはECサイトで商品を販売することになります。ターゲットの消費者がどの端末を使ってECサイトを利用しているかがポイントです。近年、スマートフォンなどの普及によりモバイル端末での取引割合が増加していることもポイントです。また、例えば大手企業では既存の大手ECサイトではなく独自のアプリを開発しそのアプリ利用による割引キャンペーンなどをおこなっています。こうしたモバイルECサイトへの対応は、「どこで売るか」という課題のひとつです。
越境ECでは、事業者が直接海外へ出荷する場合でもどこかのECモールに出店する場合でも、企業名や商品名などの知名度を向上させることが重要となってきます。海外ですでに知名度やシェアがありブランドの認知がある場合を除けば、いくら日本製の商品であってもターゲットの消費者から能動的に検索などでその商品ページにたどり着くことは難しいことです。越境ECは、実店舗で販売するのと比べてEC市場の参入障壁は低いとはいえ、初期費用としての広告宣伝費を考えると店舗運営の費用を上回る売り上げを稼いで採算を確保することは簡単ではありません。
例えば中国を対象にしたビジネスの場合重要になるのが、それまでのブランド認知を有効活用することやターゲットとなる購買層が受動的に仕入れる情報の中に自社の商品の情報を盛り込むことです。例えば、中国では「代購」というビジネスが存在します。日本では代理購入やソーシャルバイヤーと呼ばれ、個人(場合によっては業者)が海外に出向き、文字通り代理で商品を購入してくることを指します。海外での直接購入や海外のwebサイトでの購入と並んで、中国人による海外消費の中心的な手段となっており、その経済規模は中国の税収に打撃を与えるほどです(中国人の爆買い担う「代購」、政府が取り締まり強化 - ロイター )。
これほどまでに代購が大きな影響力を持つ理由はいくつかありますが、ひとつは関税や規制など貿易上の問題から越境ECサイトが中国消費者向けのサービスをあまり展開していないことがあります。こうしたマージンや法規制を回避するために代購を利用し海外の商品を手に入れたいと考える消費者が多いのです。また、国内の偽物や粗悪品の流通量が多いこともあり、海外での直接買い付けや口コミへの信用度が高くなっています。つまり、代購というチャンネルを活かすことができれば、インバウンドから越境ECへの接続もさることながら、口コミという形で消費者へ直接情報を伝えることができるということです。
中国では口コミによる評価が大きな影響力を持つため、例えば中国ならばテンセントQQやWeibo、WeChatといった現地でユーザー数の多いSNSの利用や口コミなど、情報の発信源であるKOL(Key Opinion Leader≒インフルエンサー)を活用したマーケティングが有効です。また、越境ECはB to CだけでなくC to Cの市場も一定割合を占めるため、流行に敏感な消費者に対して、物販だけでなく価値観やライフスタイルの魅力を売り込む手法が重要になってきます。こうした場合にも、インフルエンサーの活用が有効となります。
課題3. 越境ECサイト内での支払い方法は地域によって異なる
越境ECにはいくつかの支払い方法が利用されています。例えば、コンビニや銀行などでの振り込み決済、クレジットカード決済、代金引換、PayPalのようなプラットフォームを用いた決済などが一般的です。
こうした複数の支払い方式に対応することも越境ECの決済プロセスにおける課題だといえるでしょう。国や地域ごとに支持されている支払い方法が異なるため、その時代や地域に合わせた対応が求められます。例えば、東南アジアでは銀行口座やクレジットカードの保有率は国によってバラつきがあり、特にインドネシア、マレーシア、ベトナムでは代金引換が主流となっています。
一方、欧米や中国ではPayPalや支付宝(アリペイ)といった大規模型のペイメント・プラットフォームを利用した決済が主流となっています。ただし、東南アジアではフィンテックが普及拡大する可能性もあることから、今後こうした現状は変わっていくかもしれません。いずれにせよ、ターゲットとなる国の状況に合わせて、支払い方法の選択肢を用意しておくことが望ましいといえるでしょう。
課題4. 越境ECで売れた商品の配送方法について
越境ECには、商品の配送にかかるさまざまな物流のプロセスがあります。自社で独自に配送方法を確立するのには課題が多く、それだけのリスクとコストをかけることができる事業者はなかなかないかと思います。そのため、FedExやDHLのような国際配送サービスやEMS(国際スピード郵便)を利用するのが主流となっています。物流に関して、デリバリーコストやデリバリータイムを少なくしたい企業側の課題となってくるのは通関です。輸出入における税関の手続きは品目ではもちろん、配送方法によっても異なってきます。事業規模や取り扱う商品に合わせて方法を選択することがコストや時間の節約につながり、ひいては顧客満足度にもつながるはずです。自社で配送に取り組む場合も、配送業者に依頼する場合も、ユーザーが注文してからいかに安く早く配達できるかが満足度につながり、その後の評価にもつながります。
越境ECでの課題を解決するためのアクションまとめ
ここまで、越境ECの課題についてさまざまな視点からアプローチしてきました。越境ECで何を売るか、どこでどうやって売るか、支払い方法や配送方法はどんなサービスを使うのか、それぞれのプロセスにはいくつもの課題がありました。では、これらの課題に対してどのように対策すればよいのか、まとめてみます。
まず、越境ECで何を売るか、という課題を克服するための解決法について。
ポイントは1)インバウンドでの売れ行きなどからターゲット国の市場ニーズを把握すること、
2)日本人向け商品の品質は信頼性の証となること でした。
特に2点目は、クールジャパンのような日本文化に特化したものだけでなく、単純に商品が壊れにくいといったクオリティーの側面でも日本の商品は評価されていること、またどちらの側面を押し出すかはターゲットによって異なるという点で非常に重要となります。
次に、どこでどう売るか、という課題に関して。ECサイトの中でも急速に普及しているモバイルサイトへの対応は、事業者がECプラットフォームを選ぶ上でカギとなっています。また、実店舗を持つコストによる参入障壁が低い代わりに、越境ECは情報発信が大切です。一方で広告宣伝費にコストをかけてもすぐに効果が出るわけではありません。そこで、SNSやインフルエンサー、代購などのチャンネルを活かした口コミ戦略が有効となってきます。このことは越境ECのC to C市場のライフスタイル消費やインバウンドへのアプローチとしても有効です。
そして、支払いや配送の方法といった越境ECを支えるインフラ面での課題ですが、これらについては自社での直接的な対応をするというよりは、既存の選択肢を十分に活用することを優先するべきだと言えます。デリバリーコストやデリバリータイム、カスタマー対応の体制を自社が提供する商品やサービスに合わせた形で整備しておけば、コストカットだけでなく顧客満足度にもつながります。
これまで、日本の企業は海外へと事業展開するにあたって、問屋や商社、現地法人を介するというビジネススタイルを確立してきました。こうしたビジネススタイルはターゲット市場となる国に詳しい中間業者を通すことで分業体制を取り、また実店舗などを現地に置くという点で運用面での安定感がありました。しかし、まさにその強みゆえに、マーケティング戦略を外部に任せっきりにしてしまう弱さを抱えており、また現地法人とのシェアの食い合い(カニバリゼーション)を恐れるがゆえに越境ECへの動きが鈍くなってしまっています。
越境ECなどインターネットを通じた取引では生産者と消費者が直接コンタクトすることが可能です。つまり、顧客との交流を図り、その中で改善点やニーズをくみ取ることができるのです。こうした素早い対応が求められる点で、情報の発信だけでなく情報の受信のスピードも重要なポイントとなります。文化とクオリティーという武器を活かすために情報の受発信へ注力していくことが、日本の事業者における越境ECの課題であり、これをクリアすることで大きなビジネスチャンスを掴むことができる可能性が増えそうです。