インバウンドビジネスの転機を迎えた日本とこれから必要な視点
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買い物だけじゃない!これからのインバウンドビジネス
インバウンドビジネスは、単純に単価の高いモノを購買する消費動向から体験や旅行における複数が組み合わさった消費動向へとターゲットが移行しているようです。観光庁が発表した訪日外国人消費動向調査によると、一人当たりの旅行支出は前年同期と比べて2年連続で減少傾向にあります。その一方で、訪日外国人数(推計値)は5年連続で過去最高を更新しており、旅行消費額も半期ベースで初めて2兆円を超えました( 訪日客、2割増の1375万人=消費は初の2兆円超え-上半期 )。これは中国人観光客による「爆買い」が続いていた2015年を上回る金額となっています。
前年と比較して消費額の費目構成比は、買物代が4割近くを占める形でほとんど変化はありませんが、購入する品目や購買動向の内実には大きな変化が現れてきています。例えば免税客の平均単価は、2017年に入って急速に回復したとはいえ、「爆買い」が話題となった当時と比べると1万円以上下がっています。しかし、免税総売上高は2017年1月、4月と最高記録を更新し続けています。購入品目については、化粧品や医薬品、食料品などといった日用品の購入率が高くなっており、ハイブランドを大量に買いあさるような購買パターンからの変化が見受けられます。つまり、相対的に低い単価の商品をたくさんの訪日観光客が購入していくことで現在の消費額が形作られていると言えるでしょう。
では消費額の残りの6割、すなわち宿泊費、飲食費、交通費、そして娯楽サービス費といった費目についてはどうなっているのでしょうか。旅行をする時に間違いなく消費される費目は宿泊と飲食、そして交通です。これら3費目を合わせると残り6割のほとんどを占めることとなります。インバウンドビジネスで重要なのは、これら3つの必須費目とモノ消費(=買物代)やコト消費(娯楽サービス費)を組み合わせて考えることでしょう。
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インバウンドビジネスの新たなターゲットとして有望なのは東南アジア地域
ここで2017年第2四半期の訪日観光客数の伸び率を見てみましょう。購買動向を主導し、10%以上の増加率を維持してきた中国からの旅行者は頭打ちとなる一方で、韓国や香港が非常に高い増加率を見せました。また、インドネシアやフィリピン、ベトナムなどを中心に東南アジア諸国からの旅行者数が継続的に高い伸び率を示しています。
これまでインバウンドビジネスがターゲットとしてきた東アジア諸国は、現在も訪日外国人旅行消費額の7割近くを占めています。しかし、政府が掲げる訪日外国人旅行者数の目標をふまえるならば、これからのインバウンドビジネスはより広い市場を視野に入れる必要があり、成長率を鑑みても東南アジアはその大きな足がかりになると考えられます。
しかし、一口に東南アジアといってもそれぞれの国で消費傾向は異なります。例えば、ベトナムは買物代が消費額の4割を占め、交通費が低くなっていますが、シンガポールでは買物代の割合が低く、代わりに宿泊費が最も大きな割合を占めています。また、マレーシアは宿泊費と買物代が同程度である一方、飲食費が比較的高い割合となっています。
まだまだインバウンドビジネスに有効活用できる各地の観光資源
こうしたニーズが多様化・複雑化していく状況下にあって、「爆買い」時のように購入者単価の高い商品を売っていくのとは異なるビジネスモデルが要求されています。こうしたインバウンドビジネスのモデルは、ターゲットとなる消費者のニーズだけでなく、持っている商品や資源にあわせて形づくっていく必要があるようです。
近年、観光資源を持つ地域の自治体や関連企業はコト消費へと注力しています。例えば、7月21日まで開催された「インバウンド・ジャパン 2017」では、伊勢神宮を擁する伊勢市や神社本庁などがパネルディスカッションに登壇し、神社仏閣という観光資源の活用における「政教連携」の重要性が確認されました( 「恐れず政教連携しよう、地元の神社仏閣こそ観光資源」、伊勢市や神社本庁が議論 )。
また、はとバスは6月14日にインバウンド向けの新コース(英語・中国語)を発表しました。新コースには着物での鎌倉散策やフルーツ狩り、忍者体験など体験型ツーリズムが盛り込まれ、コト消費ブームを意識した内容となっています( インバウンド市場でのコト消費を狙う新コースを発表 はとバス )。ところかわって、しまなみ海道ではサイクリングの名所であることやミシュランガイドの掲載などによる高い海外認知度を活かし、外国人観光客を継続的にさせています(広島・尾道、28年の観光客数675万人 外国人・サイクリングが牽引、過去最多を更新 )。
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交通こそがインバウンド観光を支え、贅沢な時間も提供する
第1の必須費目である交通をめぐっても、地理的な利点や運賃、混雑などの要因をふまえた動きが見られています。例えば、九州-釜山間フェリーでは対馬の人気を背景に韓国人の利用者が100万人を突破しました(九州結ぶ旅客船、韓国人利用が初の100万人突破 2016年度 )。また京都市では、バス運賃を値上げする代わりに市営地下鉄も利用できる「京都観光1日(2日)乗車券」を値下げすることで、地下鉄への誘導を通じた観光客によるバスの混雑緩和を図っています( 京都市「バス1日乗車券」を500円→600円へ 地下鉄は300円値下げして1日900円に 来年3月 )。
交通そのものはいわゆるインバウンドビジネスというより、それを支えるインフラに近い存在です。そのため、(LCCの例はありますが)交通そのものへの出費が大きく変動するというよりは、移動先の決定や交通量の調整など、インバウンドビジネスの環境をつくりだすものといえるでしょう。
その一方で、交通を積極的に他の要素に結びつける試みもおこなわれています。その代表例がななつ星や四季島のようなクルーズトレインでしょう。日本人旅行者のニーズはもちろんですが、外国旅行者への優先申し込み枠を設けるといったインバウンド対策により、ななつ星では2016年度で約2割、四季島では2017年度12-3月出発分で約1割が訪日旅行者による申し込みとなっています( 豪華寝台列車「四季島」の予約好調 、 クルーズトレイン「ななつ星 in 九州」が九州の魅力や宝を世界に向けて発信! )。
こうした富裕層向けのサービスを特定エリアだけでなく地域全体で共有することができるという点において、交通がインバウンドビジネスにおいて果たす役割は非常に大きいといえるでしょう。
宿泊の利便化で新規とリピートを呼び込む
第2の必須費目である宿泊についても見てみましょう。2016年時点でインバウンド宿泊は7000万人泊を超えました。その内訳は東京・大阪を中心とした「ゴールデンルート」やインバウンドで定番化した北海道、福岡、沖縄といったトップ10が8割を占める形となっています。その一方で、宿泊数の伸び率は地方で高くなっています( 2016年のインバウンド宿泊は7000万人泊超 )。
もともと、2015年までの円安基調の中でインバウンドビジネスは市場を拡大してきた経緯がありました。しかし、2016年の円高でも成長が続きかつ地方での伸び率が高いことを鑑みると、「ゴールデンルート」を巡る団体旅行が主流の動向に対する個人旅行比率の増加、そして訪日インバウンドのリピーター増加が大きな推進力となっているのは間違いありません。
こうした動向を受け、観光庁は2017年、旅館の競争力を高めるために備品・食材の共同調達や共同集客など施設間の連携を促す方針を固めました( 観光庁、旅館の共同調達・集客集客など効率運営促す 訪日客増に対応 )。施設数が減少し、年間客室稼働率も低迷している中、訪日客の需要を呼び込むことによる地域観光の活性化に向け、旅館業へのてこ入れが急がれているのです。
かたや競争が激化しているのが民泊市場です。世界最大手のAirbnb(エアビーアンドビー)は2017年7月にみずほ銀行と業務提携し、仲介サイトや周辺サービスの拡充を図っています。また、楽天グループは8月、中国最大手の途家(トゥージア)と業務提携することで物件情報や体験型プランの開拓で協力し、先行するAirbnbを追いかけています。日本の民泊市場は、早ければ2018年1月に施行される住宅宿泊事業法(民泊新法)の成立を受け、鉄道会社やIT企業などが事業参入する動きを見せており、上述の海外資本との業務提携もその一環といえるかもしれません( ミニストップ 空港に初出店 )。宿泊をめぐるインバウンドビジネスも、業務効率化や隣接業種からの参入、体験型プランによるコト消費といった宿泊にプラスした価値の創出をふくめ、競争は激化の一途をたどる様相です。
最大のコンテンツである飲食関連の満足度を高めるために何ができるか
第3の必須費目である飲食は「爆買い」が話題となった2015年こそやや減少したものの、ここ数年間は旅行消費額のうち2割前後をキープし続けています。旅行消費額のトータルが上がっていることを考えると、飲食は安定して成長するインバウンドビジネスのキラーコンテンツといっても過言ではないでしょう。訪日外国人消費動向調査でも、訪日前に期待されているのは観光やショッピングよりも日本食であり、実際日本に来たほとんどの訪日外国人が日本食を食べていることが明らかになっています。
飲食業界側もまた、訪日観光客に期待を持っています。日本政策金融公庫が実施した「平成28年下半期食品産業動向調査」によれば、約半数の飲食業(外食)が売上拡大の機会として訪日外国人旅行者の増加を期待しています。しかし、インバウンドビジネスとしての飲食業はまだまだ発展途上といえます。農林水産省は平成28年から「飲食事業者のためのインバウンド対応ガイドブック」( 飲食事業者のためのインバウンド対応ガイドブック 、 飲食事業者のためのインバウンド対応ガイドブック )を公開していますが、その中では言語的なコミュニケーション、宗教やベジタリアンへの対応、クレジットカード決済、食文化や慣習の違い、フリーWi-Fiの導入やインターネットでの情報発信など、実に様々な課題が提起されています。
これに対し、企業はもちろん各都道府県や地方自治体もインバウンドビジネスおよびその支援に乗り出しています。例えば多言語メニューは訪日外国人からのニーズも高く、飲食店のインバウンド対策に必須となっています。有料で多言語化を請け負う企業も多数ありますが、いくつかの都県では4〜13言語での多言語メニューをはじめとした翻訳サービスを無料提供しています( 飲食店の料理メニューを多言語化できるサイト )。
また、多言語対応とあわせて宗教やベジタリアン、アレルギーへの対応も大きな課題となっています。イスラム教やユダヤ教、ヒンドゥー教など、多くの宗教は食事に関する厳しい戒律を有しています。特にムスリムは訪日客の中でも大きな伸びを見せており、飲食業に関わるインバウンドビジネスには今後の対応が求められます。こうした宗教上の制限もさることながら、健康や道徳上の理由からベジタリアンとして生活している人々が一定数います。特に訪日観光客の中でも大きな割合を占める台湾や香港は、「素食」の発想からベジタリアン人口も多いことから対応が急がれます。
近年では横浜市がムスリムとベジタリアン向けのガイドブックを配布しています( 「ベジタリアン旅行者」と「ムスリム旅行者」向け横浜ガイドブックを配布開始 )。また、企業の取り組みではキッコーマンがハラール認証を受けた醤油を飲食店向けに販売しました( 「キッコーマン ハラールしょうゆ」新発売 )。一方、当事者であるムスリム自身が口コミで情報共有をおこなうサービスも出てきています。( 訪日ムスリムの「食事」選び 同胞の口コミが最も安心 )。
アレルギーについては、不案内な飲食物の提供が命に関わります。訪日外国人の多くがインターネットを介して情報を得ていることを鑑みると、一度のトラブルがあっという間に世界中へ拡散してしまうリスクを飲食物に関わるインバウンドビジネスは負っているともいえます。こうしたリスクを回避するためにも多言語対応が非常に重要となってきます。こうした中、都内のセブンイレブンでは商品にスマートフォンをかざすだけで原材料やアレルギー情報を多言語表示するアプリの実証実験がおこなうなど、対策が進められています( スマホで原材料、アレルギー情報を表示 多言語対応で訪日外国人の利用も右肩上がり )。
日本食の味や品質が多くの訪日旅行者に評価される中、サービスやファシリティ面の充実も、口コミのインパクトやリピーターの増加を考えるのであれば対応すべきでしょう。その中でも決済方法については、これまでカード決済への対応が遅れていたことが課題として指摘されてきました。近年では、スマートフォンやタブレット端末によるカード決済システムが登場したことで店舗での導入も容易になり、例えば中国のスマホ決済が国内レジに導入されています( <インバウンド向け決済サービス> 国内POSレジ導入外食店舗で中国二大スマホ決済が可能に )。外食産業での決済に関するインバウンドビジネスは今後ますますの需要が見込まれます。
ところで、2020年のオリンピック・パラリンピックに向けた動きのひとつとして大きな話題となっているのが受動喫煙対策です。厚生労働省の法案では明確な区分・罰金規定が盛り込まれ、これに対して外食産業やホテル業界から反発が出ているのが日本の現状です。一方、インバウンドビジネスの観点から飲食や宿泊に関する喫煙ルールを見てみると、現状では集客やリピート率にはさほど関係がないことが調査結果として明らかになっています。
実際、主要訪日国からの観光客の4人に1人は喫煙者であると推計されていることを鑑みても、インバウンド対策としては店舗ごとで禁煙・喫煙を分けたり、店舗内の分煙に力を入れたりするなど、各店舗の実態に合わせた対応が重要となりそうです( 東京五輪に向けて進む禁煙法案はどうなる? 、 各国の喫煙率から「インバウンド喫煙率」を調べてみました )。
インバウンド対策に必要なノウハウや情報は以下のリンクからもご覧ください。
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インバウンド観光客が求める要素を多面的に捉えて組み合わせる
ここまで、インバウンドビジネスにおけるさまざまな要素について見てきました。これまで買い物が中心だったインバウンド消費の大局的な動向が変化していく中、交通や宿泊、飲食といった、旅行における必須費目への注目が大きなポイントになってきています。インバウンドビジネスにおいて今後重要なのは、個々の費目における課題にフォーカスするだけでなく、それぞれを組み合わせて考えていくことでより大きな市場をターゲットに据えていくことではないでしょうか。
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