Research2014/07/01
クラウドソーシングとは、インターネット上で仕事を依頼したい企業や個人(発注側)と仕事を請け負うフリーランス(受注側)をマッチングするプラットフォーム・サービスです。そうは言っても、外注との違いが分からないといった声も聞こえてきそうです。端的に言うと一般的な外注との違いは大きく分けて3つあります。コストと速さと対象数です。たとえば、日本に居ながらある化粧品について海外のニーズ調査をしたいとします。実際に現地に行くのには時間もコストもかかります。また、XX総研やXX商社に調査を外注すると中小企業では気軽に払うことのできない金額になってしまうケースもあります。そんな時、クラウドソーシングを使えば、直接現地の調査員に少額で1契約から仕事を依頼することができます。更に、日本人の感覚と現地の感覚はやはり違います。現地の人の感性で、商品の名前やデザインを考えてもらったり、競合にどういった商品があるのかの調査をしてもらうこともできるのです。調査を依頼する対象は世界規模で、一企業にアウトソーシングするのとでは対象数が大きく異なります。
そして、突発的な案件であっても、そのタイミングで仕事を受注できる世界中のフリーランスが、時差を問わず、応募・提案してくるので、業務遂行までのスピードが速いのも特徴です。 インターネットの普及や発達のおかげで、時間や場所を問わず簡単に世界中の人々に仕事を瞬時に依頼できるようになりました。その結果、今までの外注とは異なるスピード、コスト、提案数を得る事ができるのです。これがクラウドソーシングです。 言葉自体は、2006年に「WIRED」誌のジェフ・ハウが「The Rise of Crowdsourcing」というブログ記事の中で最初に定義しているもので、あまり新しくはありません。クラウドソーシングの始まりは、1998年に設立されたElanceというウェブサービスと言うことができるでしょう。 しかし、本格的に成長しはじめたのは2010年代に入ってからです。注目されはじめた背景には、インターネットの普及や米国でのリーマンショックの影響があります。企業は、不景気をきっかけにコスト削減に動きました。一方、多くの優秀な人材が失業し仕事を求めていました。そんな時に、インターネットで簡単に仕事の受発注が1契約から締結できるクラウドソーシングに注目がいったのです。
企業の問題解決のためのアイディアを募集したり、ソフトウェアの開発業務を海外の優秀な人材に安く委託したり、多言語翻訳を外国人に依頼したりと、クラウドソーシングの使われ方は様々です。自分で起業をしようとしたときに、アイディアはあるのに、翻訳の力がない。プログラミング言語を書くことができない。そういった障壁で折角のチャンスを逃すのはもったいない。クラウドソーシングを使えば、可能性を無限大に広げることができるのです。 メリットを享受するのは企業だけではありません。たとえば、技術はあるのに怪我や育児などで自宅を離れることができない人にも、クラウドソーシングは恩恵をもたらします。都市にいなくとも、オフィスが無くても、パソコンさえ一つあれば、いつでもどこでも仕事を請け負うことができるからです。 コスト削減、スピードの早さ、アイディアの豊富さ。どれをとってもクラウドソーシングは可能性を大きく秘めたトレンドだということができます。「クラウドソーシングの衝撃」(比嘉邦彦・井川甲作著、impressR&D出版)から一つ具体例を出します。 2011年、日活株式会社は、100周年の記念ロゴの製作をクラウドソーシング経由で募集しました。日活株式会社とは、1912年に 「日本活動写真株式会社」 として誕生し、以来100年にわたり、映画を作り続けている歴史ある会社です。たった一週間の応募期間で、152件の応募作品が集まり、その中の1件がみごと採用されました。
(日活ホームページより)
このロゴの報奨金はわずか7万円でした。しかし、大手代理店に同様の数のデザイン案を出してもらうとなると、1000万円以上の予算と3か月以上の時間がかかったようです。 ただ、ロゴ制作には本来は単なるデザインだけではなく、商標的な問題がないかの調査やCI設計など、付随する多くの専門業務があります。クラウドソーシングを使って行われるコンペ形式の案件の多くは、こうして付随価値は料金には組み込まれていないことには注意したいです。現在、ElanceのGlobal Online Employment Reportを見てもわかるように、仕事の案件数、フリーランスの収入共に年々増加しています。日本フリーランス協会は「フリーランス」「フリーランサー」を独立できるほどの才能・技能・特殊能力をもった、貴重な即戦力の人財と定義しています。そして、米国では全労働人口の4人に1人がこうしたフリーランスとして活動していると述べています。 こうしたフリーランスの増加によって、米国では登録者数が23万人を超えるフリーランサーズユニオンのような団体が存在しています。そこでは、フリーランスとして働く人々の保険や医療、割引などのサービスを用意しています。フリーランサーズユニオンも、増加するフリーランスの労働環境が整備されていない問題を解決しようとして1990年代に設立されました。日本でもこういった団体が今後設立される可能性もあります。
リンダ・グラットソン著の「Work shift」(池村千秋訳、プレジデント社)の中にもあるように、未来の世界では人間関係資本を築く方法がインターネットを通じて飛躍的に拡大すると考えられます。その中では、大勢の中に埋没しないよう独自性のある専門技術を磨かなくてはならないのです。そして、大勢の人と結びつき、イノベーションを起こす必要があります。 ダニエル・ピンク著の「Free Agent Nation」(邦題「フリーエージェント社会の到来」池村千秋訳、玄田有史解説、ダイヤモンド社)にも、未来の働き方が描かれます。それは、多数のフリーエージェントが自宅の通信環境を使い業務を遂行している時代です。そこでは今までのオフィスのあり方は大きく変わります。大半のスペースは、仲間が顔を合わせて協力し合う場所になり、個人が毎日働く場所ではなくなります。個人の仕事場は自宅やオフィスを選ばなくなり、通勤ラッシュと言う言葉は過去のものとなるでしょう。 このような未来は、効率性のためにも、コストの削減のためにも近い将来訪れるはずです。そして、それを後押しするのがクラウドソーシングというトレンドなのです。インターネットを通じて、世界中の人間に仕事を頼み・頼まれることができる。皆さんも、クラウドソーシングに参加し、未来の働き方を体感してみませんか?
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【参考文献】
「日経Bizアカデミー」(後編) 「クラウドソーシングの衝撃」(比嘉邦彦・井川甲作著、impressR&D出版) Elance online employment report (2014/6/4 アクセス) 日活ホームページ(2014/6/6 アクセス) CAREER HACK(2014/6/6 アクセス) 日本フリーランス協会 (2014/6/6 アクセス) Free Lancers union (2014/6/6 アクセス)