リサーチ2018/02/27
産学連携調査報告第2弾 ヒアリングからみるクラウドソーシング利用の実態:導入・活用・課題
はじめに
ワークシフト・ソリューションズでは、帝京大学の中西穂高教授との産学連携調査をおこなっております。第1弾として報告させていただいたアンケート調査をふまえ、現在はクライアント企業様にご協力いただきながら、利用状況についてをより深掘りするためのヒアリングを進めております。今回はクラウドソーシング導入のきっかけ、フリーランサーの選定基準や活用する上での工夫、メリットやデメリットをふまえたプラットフォーマーに期待される改善点について迫っていきます。そして、クラウドソーシング・サービスを提供するプラットフォーマーとしての進むべきあり方について考察します。
ヒアリングにご協力いただいたクライアント企業様のうち、今回は以下の企業様の事例を紹介させていただきます。
表1.協力クライアント企業様一覧
なぜクラウドソーシングを導入したのか
まず、なぜクラウドソーシングを導入することを決めたのかについて、各企業の動機を検討していきます。
クラウドソーシングをかなりの時間利用しているB社では、もともと社員の離職率を下げることを目的に導入を決めたそうです。クラウドソーシングに外注することで残業時間を減らし、空いた時間を自己研鑽のための学習時間に充てることで社員のスキルアップを促進しています。
また、社内に必ずしも人材が十分ではない場合、海外関連事業の展開に向けて利用を始めたという声も聞かれました。例えばA社は、国内のクラウドソーシング・サービスを利用した時の経験からイメージが良くなかったそうですが、海外事業で人員が必要となったことから当該の事業部のみで利用を開始しました。同じく海外事業でご利用いただいているE社では、新規事業として立ち上がった部署内で海外へのアプローチを模索する中からクラウドソーシングへとたどりつきました。その後、国内のクラウドソーシング・サービスが逆輸入のような形で社内に認知され、国内案件を扱う他部署でも外注がおこなわれるようになっているそうです。
E社が新規性の高い事業において導入を決めたように、事業そのものの立ち上げ段階からクラウドソーシングを使うケースもあります。C社では、リソースの少ない折りに弊社より直接営業を受けたこともあり、スタートアップ段階からご利用いただいています。もともと国内向けのクラウドソーシングを利用した経験があったため、海外向けサービスも導入はスムーズだったそうです。
一方で、もともと経営層がアメリカのクラウドソーシングを利用していた経緯から、現在の事業でも活用し続けているD社のような例も見られました。海外とのコネクションが強い企業の場合、現地法人がクラウドソーシングを活用しているケースもあることから日本でも導入がスムーズになされるようです。
以上、5社それぞれのクラウドソーシング導入の経緯を概観しましたが、個別企業へのヒアリング結果は、アンケートを基にした第1回調査報告の結果を跡づけるものでした。国内向けサービスと海外向けサービスで企業の利用目的も異なる部分はありますが、クラウドソーシングの導入は経営資源を補完することに主眼が置かれており、リソースが少ない事業の立ち上げ段階や新規部署に利用するケースが多いようです。また、クラウドソーシング自体への慣れがあるかどうかは他のサービスを導入する際にも重要であることがわかりました。国内外を問わず、何らかの利用経験があることがクラウドソーシングそのものの利用を後押しするのかもしれません。
クラウドソーシング活用の工夫
クラウドソーシングの導入目的について見てきましたが、実際に企業ではどのようにクラウドソーシングを活用しているのでしょうか。特に、どのように良いフリーランサーを選定しているか、どのように彼らをリピートしていくかは、今回のヒアリングで大きな焦点となっています。ここではワークシフトの利用を事例として、フリーランサーと仕事をするにあたっての工夫を中心にヒアリング結果をまとめていきます。
B社では導入当初、予算の使い方への戸惑いや「自分の仕事がなくなるのでは」と危機感を抱いた社員もいたそうです。そこで1人当たり10時間分の業務時間をクラウドソーシングへ充当するよう指示して導入を進めました。また、フリーランサーのパフォーマンスや、B社のための仕事を受注することのインセンティブを高めるために、最初から成果は求めず、提案金額より多く、キャッシュフロー前倒しで支払いをすることになりました。特に主要なワーカーについては、金銭・待遇面でかなり気を遣っているそうです。そして、フリーランサーにクライアントからのフィードバックも伝えると同時に、クライアントにもクラウドソーシングの利用を開示しています。逆にE社の場合、自社のクライアントに対してクラウドソーシングを使ってどういったことをしているかを伝えていないため、依頼タイトルをぼかしてリスクヘッジをしているそうです。クラウドソーシングの認知度がまだ高いとは言えない現状ではこうした依頼方法をとっていますが、今後社会の状況が変われば依頼についてもオープンな形へ変わるのではないかとも見ています。クライアントらしき企業がWSSを使っている場合もあります。また、アカウントに社名を出している企業は、依頼主としてまっとうな企業であることをアピールする目的があるのではないかとE社は分析しています。
A社は官公庁からの依頼を受注するため、プロジェクトにおける説明責任が問われる立場になることがあります。このため、コストカットやブレーンとしての生産性よりも、手足となって働く上での信頼性に重点を置いています。このことから、高度な専門性を要求する業務ではなく、機密性が低く納期までの時間制限がそれほど厳しくない業務で活用機会が高いそうです。また、働く人の顔が見えにくいクラウドソーシングを利用するにあたっては、チーム化して、ある程度事前にスクリーニングし、業務数を重ねる毎にふるいにかけるという“クローズドなクラウド”を組織することで信用保持をおこなっています。
こうした“クローズドなクラウド”を組織するという工夫は、定期的に同じ内容の業務が出るC社では、細かい要件定義をおこなうコミュニケーションコストを下げてスピーディーな業務遂行を狙っておこなわれています。またD社では、特に需要が多く高度なスキルを持つ人材について、多忙さやスケジュールを理由に断られるリスクを勘案してリピートできる人材をバラエティをもたせつつ複数人確保しているそうです。
人材選定について、E社は事前にダミーの仕事を掲載することで必要な能力をテストし、良い人がいれば継続的に活用する形をとっています。E社ではこのプロセスをWebでの人事面接と同様の感覚と捉えているようです。C社では実際に仕事をした上でリピートするかどうかを判断しているとのことでしたが、フリーランサーの質を見極めるためには実際一緒に働いてみるのが一番、といったところかもしれません。テスティングや事前にやりとりをおこなう中でどの程度何ができるかを事前にすり合わせて要件定義を済ませているそうです。また、どの程度の成果がでてくるかの見通しを自社のクライアントに伝える必要があるため、報告のフォーマットを事前に自社で作成しています。この時ポイントとなるのが、業務のイメージを具体的な作業レベルに落とし込むことです。なぜなら、やって欲しいことを要求レベルで投げるとうまくいかないからだそうです。
プラットフォーマーに期待すること
クライアント企業様はさまざまな工夫を凝らしながらフリーランサーを活用していらっしゃいますが、両者の間には弊社のようなプラットフォーマーが立ち、フリーランサーとのマッチングや海外送金などの決済手続きをはじめとした事務業務をおこなっています。クラウドソーシングはインターネット隆盛の中で始まった新しい働き方であり、より広く認知されより多くの方々に活用されるためには、より良い環境へと改善していくことが課題となります。ここでは実際にサービスを利用されたクライアント様より、より使いやすくより働きやすい環境を整える上でプラットフォーマーに期待することについてご紹介します。
E社からはUpworkなどクラウドソーシングの活用が進んでいる海外発のサービスの方がサイトのユーザーインターフェイスが使いやすいとの意見をいただきました。特に、WSSでは特定のフリーランサーに向けた仕事でも応募のプロセスが入って煩雑なため、個人に直接依頼できるシステムが欲しいとのことです。また、海外のサービスではメッセージ機能がチャット式であり、記入中もリアルタイム感がある方が好みだとおっしゃる方もいらっしゃいました。
一方で、クラウドソーシング・プラットフォームには決済機能を担うという重要な役割があります。エスクロ入金による入出金の管理はもちろん、海外送金を円決算可能である弊社のサービスは業務遂行の背後にある経理面を支えています。弊社のクラウドソーシングをご利用いただいている案件は相対的に小額のものが中心となっております。そのため、クライアント企業様がもし個別に会計処理をおこなった場合、経理上の手間が大きくなってしまいます。こうした事務処理コストや報酬面のリスクに鑑みるならば、(よほど中間マージンを取られるのでなければ)フリーランサーとの直接契約をおこなうよりもプラットフォームを介した取引の方が安全かつ楽なのです。
事前のコミュニケーションを重視するE社の担当者は、直接契約を求めてくるFLはあまり質が良くないケースが多いと述べていました。もし品質が良くて本当に必要なら手数料分を乗せても安いため、Upworkなどでスキルが高いフリーランサーが時給を提示しているケースで条件が合えば採用しうる、というくらいだそうです。またD社では、会社の立場から社員がたくさん使い出した場合、経理上のマネジメントや社員によるサービス利用がモニタリングできる仕組みとして、コーポレートアカウントの概念があるとよいとのご意見をいただきました。
一部に時給制を導入しているフリーランサーや勤務時間管理ツールなども存在しますが、基本的にクラウドソーシングは時間の概念がありません。そのため、弊社サービスも含めて多くのプラットフォーマーは契約という単位でシステムが構築されています。しかし例えば社内の事務処理業務のアウトソーシングのような定期的に出る仕事の場合などには、支払いシステムを含めて期間を設け、長期契約でロックする仕組みがあるとよいとD社からは示唆を受けました。担当者いわく、基本的にフリーランサーとの関係が一回の依頼だけで終わることはほとんどなく、スキルが高いほど継続して業務を依頼することが多いそうです。一方でデザインやコンテンツライティングなど、提案比較のためのコンペ的な要素や目新しさのために定期的な変更が求められる業務もありますが、クライアントの要求を一定水準以上満たしていればフリーランサーは安定して起用され続けるようです。では、なぜクライアント側は新規性やコンペを除いて安定的なフリーランサー起用をおこなうのでしょうか。そこにはフリーランサーの評価基準のバラつきと選定にかかるコストをめぐる課題が見出されました。
クラウドソーシング・サービスの導入こそ部署ないし経営層による意志決定がなされているものの、発注は個人ベースでおこなわれるケースが多く、大型案件を依頼するに際しては基準が曖昧になるという課題があります。例えばA社では、サービスへの発注は属人ベースでサンプル数が少ないため、組織ベースでの意志決定に基づいて発注する際の目安となる価格やスキルの程度など、指標軸に基づいた評価の標準化が困難ではないかとの指摘を受けました。
同様にE社からは、新しい人材を採用する際、プロフィールを見て選定をすること自体が手間と感じるため、フリーランサーや案件数の母数の大きさとの関係もあるが、プラットフォーム内の認定基準があると選定が楽であるとの意見をいただきました。また、需要のある国では事前にフリーランサーを囲った上で顧客から仕事を受けることができ、自社関連の仕事の評価もあるため選定基準もハッキリしている一方、需要が少ない国について仕事が来た時は信用できる人材を確保できないリスクがあるため業務依頼を断っているとの声も聞かれました。
この点で、D社には一番使っているサービスがワークシフトであるとおっしゃっていただき、その理由として依頼アシストにより案件に対して必要な優秀な人材の紹介を受けられることが挙げられました。プロジェクト単位で優秀な人材を探してきて紹介し、見つからなければ仕事掲載自体は無料であるため料金はかかりません。他のプラットフォームでは人単位で探す費用がかかるため(ex.10人プラットフォームが探索・紹介すると1万円)、当然ながら求める人材が見つからないリスクを抱えて費用を払わなければならず、コストに見合わないとのことです。
こうした探索・紹介にあたって抱えるフリーランサーの多いプラットフォームでは、運営側もクライアントの口コミ評価のみで判断している可能性があり、ユーザーとしてはそこに不満を感じるそうです。かといってプラットフォームに頼らずテスト用の仕事を出すなどして自社の要求水準に見合う人材を探すにしても、コミュニケーションやテスト用の仕事を出すこと自体の探索コストがかかります。
以上のことからわかるのは、プラットフォームによるフリーランサーの人物保証と探索コストの軽減がシステム・人材双方への信頼を高め、結果的に特定のフリーランサーやサービスそのもののリピートへとつながることです。
クラウドソーシング・プラットフォームのゆくえ
ここまで、クラウドソーシング導入の経緯、活用時の工夫、そしてプラットフォーマーへ期待することについて概観してきました。ここでは今後のクラウドソーシング・プラットフォームがどのような方向へと進むべきか、ここではC社とD社からの意見をふまえて考察します。
C社からは、クライアントとフリーランサー双方でのマッチング機能をご提案いただきました。高い専門スキルを有するフリーランサーを活用したい場合、ポートフォリオやCVを見ることができれば具体的な活用法をクライアント側が考えることがしやすくなります。また、海外進出やインバウンド対策などにおいて、現地のトレンドや情勢がわかっているフリーランサーから何らかの形で業務に関する提案ができる仕組みがあれば、クライアントやプラットフォーマーが想像もしなかったようなクラウドソーシングのクリエイティブな可能性を拓くことにもつながるでしょう。
D社では、スキルシェアにおいて、クラウド(群衆)の中から手探りで必要な人材を求める従来のコストがかかる方法から、例えばAIを導入することでクライアントやフリーランサーのデータベースをマイニングしてマッチングする方向へ向かうべきではないか、との意見をいただきました。特に多数の顧客および人材とのやり取りをおこなう際には、例えば口コミ評価の内容を選別し、精度の高いクライアント分析を図ることで人材の探索にかかるコスト削減を狙うことができると考えられます。また、現在は言語による参入障壁もありますが、将来的に海外のクラウドソーシング・プラットフォーマーが日本に進出してくる可能性もある中で、こうしたシステムを構築しておくことはサービスの向上とともに他社との競合においても重要な争点になるかもしれません。
両クライアント様からいただいた意見に共通しているのは、マッチング機能とより顧客のニーズをくみ取ることのできる仕組みづくりです。スキルシェアにおいて企業と人材のマッチングおよび継続的な契約にかかる金銭面・時間面・作業面でのコストを下げることはもちろんですが、マッチングの過程そのものが新たな提案や業務につながっていくことでクリエイティブな仕事を生み出すようなシステムの構築こそ、企業の生産性を向上させていくのではないでしょうか。