リサーチ2017/7/30
2053年に人口が1億人を割る日本のあるべき方向性
2017年4月10日、国立社会保障・人口問題研究所は「日本の将来推計人口」を発表しました。この中で日本の人口は2053年に1億人を割ると推計されています。今回は発表の概要をふまえつつ、少子高齢化が進む日本がどうしていけばよいのかを考察していきます。
今回発表された「日本の将来推計人口」の概要
将来推計人口は、国勢調査をもとに5年に1度改定されています。そのため前回の試算は2012年でした。前回の出生率の見通しは1.35でしたが、今回は1.44へと上方修正しました。その結果、人口が1億人を割ると推定される時期も2048年から2053年と5年遅くなりました。このことについて菅義偉官房長官は10日、「安倍政権の施策が一定の効果を与えている」とコメントしています。
しかしながら人口減少の問題は依然深刻です。特に、生産年齢人口と言われる15歳から64歳の人口の減少については大きな問題となっています。今回の推計で2015年は7728万人であった生産年齢人口は2065年には4529万人へと4割減少すると推定されています。直近である2020年にかけても300万人もの減少が推計されています。また、それに伴い1人の高齢者に対する20歳から64歳の人口比率も現在の2.1人から2065年には1.2人と、生産年齢にあたる人の負担は倍増する見通しです。
(出典:毎日新聞 4/10(月) https://mainichi.jp/articles/20170411/k00/00m/040/102000c )
少子高齢化への対策
少子高齢化への対策は主に2つの方向性が存在します。1つ目は出生率を上昇させ、少子高齢化を食い止めようとする方向、そしてもう1つは少子高齢化に日本社会を適応させていく方向です。
前者への対応として不妊治療の促進、支援の改善などが挙げられます。女性の社会進出とともに晩婚化が進む昨今(下図:平成23年人口動態統計月報年計を参照)、不妊に悩まされている夫婦は少なくありません。現行の制度では健康保険が適用される不妊治療は種類が制限されており、健康保険適用外の高度な不妊治療に対しては助成金が出るようになってはいるものの、1回15万円までの上限金額や所得制限(夫婦合わせて730万円)もあるため十分とは言えません。
また子供の存在は、教育費等で夫婦の金銭的負担の増加や夫婦の時間を束縛することにもつながります。そのため出生率を上げるためには子育て支援施策を一層充実させることが大切です。例として、日本政府は現在、地域の実態や保護者の要請に応じて、通常の教育時間(標準4時間)の前後や長期休業期間中などに希望者を対象に行われる「預かり保育」を実施する幼稚園に対して支援を行っています。
また保育所と比べると放課後児童クラブの開所時間が短いため、子供が小学校に入学すると、これまで勤めてきた仕事を辞めざるを得ない状況となる、いわゆる「小1の壁」を打破することにも力が入れられています。
少子高齢化に日本社会を適応させていくための対策としては、生産年齢人口減少に抗うために、高齢者の就労を増やす定年引上げや配偶者控除の見直しによる働く主婦層の増加といった、高齢者や女性の活用などが考えられます。内閣府の14年の試算によると、現状ペースで人が減ると40年代以降はGDPがマイナス成長で定着してしまうとも言われており、1人当たりの購買力や生産性を高めることも鍵となります。
こうした現状において、外国人労働者の受け入れも少子高齢化を解決へと向かわせる手段の1つとされています。少子高齢化は日本だけでなく、多くの先進国が抱えている問題となっています。次章では日本と同じく少子高齢化に悩んでおり、難民受け入れを促進させているドイツに焦点を当てようと思います。
移民受け入れ~ドイツの事例~
ドイツの出生率は2011年では1.36でしたが、2016年には1.50とやや上昇の兆しが見えています。この背景にはドイツがシリアからの難民を受け入れたことが挙げられます。シリアでは2011年3月以降、アサド政権派のシリア軍と反政権派勢力の民兵との衝突が主たるものとして内戦が勃発し、混乱に乗じた過激派組織ISILの台頭など国が混乱しています。その結果として、多くの難民が国外へと流出しました。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が2016年6月30日に発表したところによると、ドイツに在留している難民の数は申請認定待ちも含めて180万人となっています。180万人という数は、シリアに隣接するトルコに次いで難民受け入れ世界2位であり、いかに大きな数かがわかるかと思います。
しかし、移民を多く受け入れているドイツの政策には賛否両論があります。一番大きな問題となっているのは移民による犯罪件数の増加です。ドイツの連邦犯罪局が発表した2015年の犯罪統計によると、移民が容疑者であった数は、11万4238件と、前年2014年と比べて(5万9912件)で倍に増えています。特に話題になったのは2015年12月31日から2016年1月1日にかけて発生したケルン大晦日集団性暴行事件です。この事件後、メルケル首相の移民受け入れ政策は本当に正しかったのか、という議論が盛んになりました。また、移民の受け入れによってドイツ国民の稼いだお金が移民の福祉予算に奪われてしまうといった批判もあります。トルコからEUへ多くの難民が流入していた「バルカンルート」が閉鎖された2016年以降、ドイツへ新規入国した難民数は2015年と比べて激減しましたが、正式な難民申請数自体は増加しています。
一方でドイツの移民受け入れ政策にメリットがあるのもまた事実です。出生率の上昇、移民へ支払われる賃金は低めに設定されることが多いため、安価な労働力を得て国際競争力を高めることができるほか、国民の意識が国際的になったことや、移民のために新たな産業やサービスが生じた可能性なども考えられます。
日本のとるべき方向性
ドイツの難民受け入れの政策は、様々な意見が飛び交うものの、少子高齢化に歯止めをかけるという点では、出生率の上昇などからみて成功を収めていると言えます。日本政府の場合、高度な専門能力を持たない移民の受け入れに対して、少なくともドイツよりはるかに慎重です。現在の日本の少子高齢化社会へと変遷していく流れは、緩めることはできてもなくすことは難しいと考えられます。そのような中で、日本経済がGDPを少しでも高い値を維持するためには海外からの労働力が必要なのではないでしょうか。そして、移民受け入れが難しいならば、ネットを用いた海外フリーランスの労働力の利用が日本経済にとって有益な方策のひとつとして模索する価値はあるのではないでしょうか。
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<参考資料>
http://www.nikkei.com/article/DGXKZO15147370R10C17A4EA1000/https://howto.ac/society/problems-of-low-birthrate-and-aging-society-and-measures-that/
http://www8.cao.go.jp/shoushi/shoushika/whitepaper/measures/w-2016/28webhonpen/index.html
http://www.newsdigest.de/newsde/news/news/7891-2016-06-30.html
http://bizguide.jp/de/summary/population-labor_003725/3/
http://www.bmi.bund.de/SharedDocs/Pressemitteilungen/DE/2017/01/asylantraege-2016.html
http://toyokeizai.net/articles/-/148914
http://toyokeizai.net/articles/-/148916