リサーチ2017/3/10
日本企業が韓国進出の成功率を上げるために知っておくべき基礎知識と成功例~
海外進出を成功に導くためには、現地の事情を詳しく知ることは必須です。今回は韓国進出を考えている皆様に、韓国進出の成功率を上げるためぜひとも参考にしていただきたい周辺事情などの基礎知識や実際にあった事例を紹介します。
韓国の現在の対外経済状況は?
韓国の2015年の人口は約5,100万人、GDPは約1兆4億ドルで、世界で11位の経済規模を誇っています。韓国人は99%韓民族で、公用語は韓国語です。英語に関しては、EF EPI(Education first, English proficiency index)の2016年英語能力ランキングでは世界第27位、アジアで第5位と高ランクに位置していますが、韓国でのビジネスは韓国語で臨んだほうが良いです。ちなみに日本は2015年EF EPIランキング第35位、アジアでは第10位です。
韓国経済にとって国際貿易は大きな割合を占めています。他の先進国と比較しても国際貿易の比率は非常に高く、2015年度の貿易依存度は約80%以上でした。輸出額は約5,200億ドルで、電気・電子製品、自動車関連品、石油製品等を中心に輸出しています。一方の輸入額は約4,400億ドル。原油、電気電子部品等、主に原材料を輸入しています。貿易相手国は中国が圧倒的な首位で、米国、ASEAN、日本と続きます。
他の市場にはない特徴を持つ韓国市場
韓国市場の最大特徴は流行の変化がめまぐるしく速いことです。韓国人は流行に敏感に反応し、流行の変化にすぐ適応します。一度韓国の国内市場で流行になれば、急激にビジネスを拡大することが可能です。グローバル企業が新製品の試験販売先として韓国を選ぶのもそのためです。実は世界のファッションブランドでは「韓国で成功した企画は他の地域でも必ず成功する」ことが不文律になっています。しかし逆に世界的に成功を収めた企画が韓国では失敗する場合があります。これは韓国人が国産品をこよなく愛するがためなのです。世界的グローバル企業「Amazon」のサービス利用率は、韓国の現地企業が運営している「Gmarket」や「11番街」に比べると低く、マーケット競争で大きく水をあけられています。国内外物流も「CJ大韓通運」、「現代海運」等、現地物流会社が主です。(サービスの速度は日本と同じぐらい)一方、家具量販店「IKEA」は1990年代からアジアで大成功を収めたものの、1990年代末にようやく韓国で現地調査を始めた末、実際に進出したのは2014年に入ってからでした。
海外企業が韓国市場に進入し、現地企業との競争で生き残ることは予想より難しいかもしれません。しかし、生き残って一度軌道に乗ってしまえば事業は安定する傾向があります。まずは今何が流行っていて、今後どんなものが流行りそうかを、現地目線で調査していく必要があります。
韓国のインターネット環境と利用頻度の高いアプリ
図1:3G/4Gデーター普及率TOP10
(出典:OpenSignal global state of mobile networks (August 2016))
韓国社会ではほとんどのことがスマートフォンで簡単にできてしまいます。2016年の韓国3G4Gデータ普及率は約98%、スマホ普及率は約88%でした。つまり韓国人なら誰でもどこでも自分のスマホを使ってWEBにつながると言うことです。例えば物を売買すること、銀行のサービスを利用すること、また、さまざまな場面での支払いもスマホを通じて出来てしまいます。
スマホ大国で効果的にSNSを通じて広報宣伝をするためには現在の韓国におけるSNSの状況を理解しなければなりません。韓国のSNS市場の状況は日本のそれと違います。右の表からわかるように、KakaoTalkのメッセージアプリ市場占有率が圧倒的に高いです。
図2:日韓メッセージアプリ利用率
(出典:The huffington post 【なぜ?】日本で一強の「LINE」が韓国でイマイチな理由)
KakaoTalkのリリースは2010年3月、LINEは2011年8月、FBメッセージは2011年10月で、リリースされた時期が早い順にシェアが高いことがうかがえます。また、さまざまなSNSサービスの中でもとりわけマーケティング目的で利用されているSNSが存在します。下記『韓国でマーケティングに利用されているSNS』の図からも分かるように、ほぼ全てのオンラインマーケティングはFBを通じて行われています。FBに次いでNAVERやDAUMなど韓国のポータルサイトが提供しているブログでマーケティングをしても、高い効果を期待出来ます。多くの人が写真をアップして「最近の私のライフスタイル」を他人に見せるためSNSを使っているのも特徴です。日本とすぐ隣の国ではありますが、ウェブ・マーケティングの手法は全く違うと言っても過言ではありません
図3:韓国でマーケティングに利用されているSNS
(出典:KPRソーシャル・コミュニケション研究所)
韓国進出の成功例1: 米国のShake Shackバーガー
図4:Shake Shack ソウルカンナム店
(出典:http://news.tf.co.kr/read/economy/1673770)
アメリカ東部の有名なハンバーガーチェーン「Shake Shackバーガー」が2016年夏に韓国進出し、連日平均2時間並ばなければ店舗に入れないほどの賑わいをみせ、大成功を収めました。現在韓国では世界的なフランチャイズの「マグドナルド」も韓国本土企業である「ロッテリア」に負けて売り上げ2位となっています。この様に進入しにくい韓国外食フランチャイズ市場で、「Shake Shackバーガー」はどうして大成功を収めることが出来たのでしょう。
最も大きな理由としては確実なターゲティングが考えられます。「Shake Shackバーガー」は韓国進出前から特別な広告戦略を打ちました。たしかにハンバーガーショップの主なターゲット層は10代から30代の若者です。今、韓国の10代~30代はテレビに代わって、スマホで番組視聴をしています。言い換えればテレビCMを見ません。そこで「Shake Shackバーガー」はテレビCMを全くせず、ネット広告に特化しました。例えば接続率1位のNAVERというポータルサイトにバナーを掲示し、SNS上で新店舗の広告を大々的に打ち出しました。テレビ番組ですらスマホで視聴している韓国の若者達に向けられた宣伝戦略です。
もう一つ注目すべきは、ブランドの高級路線を前面に出すため、価格帯をアメリカ本土と同水準に維持したことです。値段が少し高くても高品質の食べ物にお金を出すことを惜しまない韓国人の特性を考えた巧みな戦略です。ヘルシーな手作り高級ハンバーガーという、今まで韓国になかった独自のイメージ路線を編み出した結果、世界120店舗中韓国の店舗が売り上げ世界1位に躍り出ました。
韓国進出の成功例2: 日本の化粧品ブランドSK-Ⅱ
日本の高級化粧品ブランドSK-Ⅱは約20年前に韓国進出に成功しました。1970年後半より、韓国の経済発展と並行し若い女性達の間で美容への関心が高まり始め、さまざまな美容関連企業が韓国市場進出を試みました。しかしSK-Ⅱを除き、韓国の美容市場で高いマーケット占有率を保っている海外企業は少ないです。ではSK-Ⅱはどのような手段で安価ながらも効能が高い韓国製品との競争に勝ったのでしょう。
図5
(出典:SK-Ⅱ日本 FB公式ホームページ)
まず、SK-Ⅱはブランドの高級化に成功しました。SK-Ⅱは韓国進出初期、自社の高級イメージを打ち出すために日本国内の価格設定と同水準にし、一般店舗では販売しませんでした。百貨店、免税店でのみ販売する高級化粧品ブランド、「高価格帯のプレステージ戦略」を実践し、確実に消費者を集めたのです。現地における広告手段も大いに参考になります。現在SK-Ⅱは現地の有名な女優を起用したCMを放送しています。ローカライズすることで現地の人が親しみやすい広報戦略はブランドの確立に役立ちました。
図6
(出典:SK-Ⅱ韓国 FB公式ホームページ)
順調なSK-Ⅱの人気に翳りが出た時期があります。2011年東日本大地震直後、ほとんどの日本化粧品ブランドの売り上げが落ちた時です。福島原発事故の影響のため製品信頼度が落ちたことも理由のひとつですが、それに加えて競合企業の著しい成長に対抗できず、10年間特別な変化を遂げてこなかったことも要因です。この時、SK-Ⅱは販売価格の見直しと、現地支店を数店舗開店し、よりローカライズした戦略に注力し、多くの消費者に親しみを持ってもらうべくアピールしました。
その結果、独自の特別な高級イメージを確立することに成功し、今もなおSK-Ⅱは人気化粧品ブランドの位置を守っています。
韓国固有のリスク
韓国は地理的に日本に一番近い国家であり、歴史、政治、軍事等いろいろな問題が複雑にからんでいます。多くの韓国人は日本製品に抵抗感を持っていませんが、いつ何が起こるか分からない不安要素は常に存在します。たとえば2013年3月、突如日本製品不買運動が勃発しました。二国間の領土問題が一般事業者にまで悪影響を及ぼした最たる事例です。他にも市場攪乱の危険性を孕むリスクは対北朝鮮の安保問題です。実は1950年に起こった朝鮮半島戦争はまだ終わっていず、今は実質休戦中です。隣国の経済発展を望まない北朝鮮がわざわざリスクを助長することもありえます。さらには小さい国内市場に比して、高い海外貿易の依存度も、韓国固有の側面として考慮しなければなりません。
総じて韓国は想定不能な戦争の可能性とともに、先進国の中では比較的不安定な経済基盤のせいで、海外からの影響を大きく受け、為替のリスクも高くなりがちです。
日本企業にとって、文化が近いことは大きな強み
海外企業にとって韓国という国は魅力的な市場であることは間違いありません。韓国企業文化は日本のそれととても似ているので日系企業には欧米企業が持っていない利点もあります。世界一の無線通信普及率と高いSNS利用率を誇る韓国社会はたしかに新しい事業が拡張しやすい環境です。流行に乗ることが得意な国民性のため、一旦事業が軌道に乗れば安泰と言っても過言ではありません。しかし同じ製品なら国産製品を好む傾向と、予測不能な韓国の特殊な社会・経済リスクを無視出来ません。
インターネットを利用したクラウドソーシングを通じ、現地の人々が参加する方式で海外企業の韓国進出という図式もあるのではないでしょうか。
以下のURLは日本貿易振興機構(JETRO)が2014年発表した「韓国進出ガイドブック」です。
日本と韓国を比較のデータ比較
(出典:http://www.oecd.org/statistics/compare-your-country.htm)
(出典: http://www.worldometers.info/world-population)
<参考資料>
ウィキペディア日本国
https://ja.wikipedia.org/wiki/日本
ウイキペディア大韓民国
https://ja.wikipedia.org/wiki/大韓民国
What’s behind South Korea’s Shake Shack fever?(英語)
http://www.npr.org/sections/thesalt/2016/09/06/492398200/whats-behind-south-koreas-shake-shack-fever
SK-Ⅱ、韓国化粧品のロール・モデル?(韓国語)
http://news.heraldcorp.com/view.php?ud=20160504001088
韓国のSNS利用状況
https://blog.siteengine.co.jp/korea/korea_sns.html